【書名】抽象絵画のすすめ
【副題】市民のための美術入門Ⅱ
【著者】吉田敦彦
【出版社】美術年鑑社
【出版年】2013年
著者は行動美術協会会員。中学校、高校で長く美術教員として勤務。
「キャンバスが敵になって立ちはだかってくるのです。「そんなヤワな塗り方ではだめよ」というように、キャンパスが受け付けてくれないのです。私もしばしば落ち込むキャンパスとの睨めっこ。あるいは描けば描くほど面白くなくなる状況。考えてみるとどうもここに一つ、本来技術には無縁のはずの抽象絵画にも必要な、「技術とでも言うべきもの」が介在して来るようなのです。それは空間処理とか構図とか構成とか造形性などと呼ばれている問題とその処理能力のことです。キャンパスの表面という空間全体の中で色も形も生きて用いられなければならないのに、なかなか空間としてのまとまりや緊張感が生まれない。いくら手を加えてみても画面が脆弱で、描いている本人にも一向に面白くない空間としてしか表れて来ないから、嫌になってしまう。 ここに必要な能力を、私は「デッサン力」だろうと考えています。 (中略) 抽象を描くならせめて、今描く形がキャンパスの全体の中でいかなる位置にあり、どのような働きを持つのかを理解するだけの、空間認識力が欲しい。がしかし、それが身に付いているかどうかは、やってみなければわからないとも言える。」
「これからは無闇と目新しいものを追うのではなくて、自己を深め内面に新たな世界を発見することに積極的であるべきというような意味でのもの、あるいはそのために常に鋭敏な感覚を養い保持するための実験精神とでもいうことになりましょうか。他人の実験や発見に驚く以前に、自分自身の世界を一歩でも広げようとする実験や発見こそ大切にすべきです。」
著者には他に「市民のための美術入門Ⅰ デッサンのすすめ」がある。共に、わかりやすい言葉で書かれた良書であると思う。