【書名】菊池伶司 版と言葉
【副題】銅版画に刻まれた生 イマージュの標本箱
【著者】堀江敏幸・加藤清美・柄澤齊
【出版社】平凡社
【出版年】2007年
帯文「版画が熱かった1960年代、一陣の風のように颯爽と現れ忽然と姿を消した版画家がいた。わずか1年余のあいだに61点の銅版画を遺して22歳の若さで逝った菊池伶司。」
「版画独自のイメージというものは、実に腰が強い。そしてイメージは直接メチエを消化していく過程でしか生まれることはないのである。それは「運」をともなう。ただ、注意しなければならないのは、版画独自のイマージュにおぼれてはいけないということである。常に版画を超えようとしなければならない。だいたい、版画の複数的な技術や独自のイマージュによりかかっている作品は、ちっ息する。それで俺は観念を大切にしたい。それは、むろん銅板を直接犯しながらのイマージュ増殖の中で発展するものである。」
「菊池伶司 宛名のない手紙」 の中で加藤清美は、版画の魅力と特性を挙げている。「版画はほかの絵画と違って、作品が小さくても通用するということです。私の尊敬する版画家の作品は、けっして大きくはありません。」「それと、複数性です。版画は肉筆の絵画と比べて、複数性ということが根底にありますから、市場では安く売買されている。そういう理由で、多数の美術館が同じ作品を所蔵する以外にも、個人で所蔵して鑑賞できる。そういうところが、大変機能的だといえます。」「制作者からみた版画の重要な特性としては、版画を作る現場で、作家が自己と対峙しやすいということがあります。」「自己との対峙というものにはひとつの条件があると思うのです。それは、自分のなかに他者の反映がなくてはいけないということです。」「強固な骨格を作り上げることができるということにおいて、版画は意外とピアノと似ているのではないでしょうか。それが、まさに版画の魅力の第一だといえるかもしれません。」 加藤清美は版画の技法書を数冊書いているが、版画に対してのご自分の考えをこのように述べているのは珍しい。
「彼の場合は、あるひとつのドラマを大いに私に投げかけるのです。彼の作品の欠点を探せばいくらでもあると思うのですが、でも、ドラマを投げかけてくるということは稀なことです。」